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大阪家庭裁判所岸和田支部 昭和49年(家)620号 審判

申立人 白石栄一 外一名

相手方 大森千代子

事件本人 白石裕司 外一名

主文

相手方は申立人白石栄一と相手方間の実子である事件本人両名に対する養育料として、昭和五〇年七月以降同人らが夫々成年に達するに至るまで一か月金一〇、〇〇〇円を毎月末日限り申立人白石栄一方に送金又は持参して支払わなければならない。

申立人白石良恵の本件申立を却下する。

理由

(本件申立の要旨)

申立人白石栄一(以下単に申立人栄一と略称)と相手方は昭和三六年一月一六日婚姻し、同年一一月六日長男裕司が、同三九年一月二日二男盛幸が出生したが、申立人栄一と相手方は昭和四二年一一月ころより別居、昭和四三年一二月四日相手方より離婚を求める訴訟が提起され、申立人栄一と相手方の離婚及び二人の事件本人の親権者を申立人一夫と定める旨の判決が確定した。ところで、申立人栄一と相手方の別居後、二人の事件本人の生活監護は全て申立人栄一とその実妹である申立人良恵の負担とするところとなつていて、相手方は何らの扶養義務を果たそうとはしない。相手方は二人の事件本人の実母であり、申立人良恵より当然に上位の扶養義務を負担する筈であるし、申立人栄一は和歌山県庁職員として勤務しているものの、月収は約八〇、〇〇〇円位に過ぎず、申立人良恵はタバコ屋を手伝い月収一五、〇〇〇円位に過ぎない。これに対して、相手方は現在幼稚園の保母として稼働しているものであつて月収約六〇、〇〇〇円程度であり、二人の子に対する扶養能力を充分に有している。よつて、申立人らは相手方の事件本人に対する扶養義務の確認と養育料の支払を求めて本申立に及んだ。

(本件調停の経過)

申立人らは、昭和四八年一二月一日受付で、別居中の実母たる相手方に対し事件本人につき扶養料の支払を求めて当裁判所に本件調停の申立をなし、その後、昭和四九年一月二一日に第一回調停期日が開かれて以降八回に亘り調停期日が開かれ、合意による解決が試みられた。その間、相手方の提起していた離婚訴訟が、申立人栄一と相手方の離婚を認容し、事件本人二名の親権者を申立人栄一と定める旨の判決をもつて確定し、事柄は離婚後の未成年子の監護に関する処分に変遷した。本件調停の主要な困難は、形としては本件申立が事件本人の養育料の負担を相手方に求めているものであるにせよ、その実質上の争いは、事件本人たる二人の未成年子の養育を申立人栄一と相手方のいずれが担当するべきかという点にあつた。すなわち、事件本人である長男裕司はてんかんとネフローゼの診断を受け、一生涯医者の手を必要とするといわれる病弱者であり、毎日の投薬、食餌療法が必要不可欠である。現在、同人の監護は申立人良恵の一切負担とするところとなつている。申立人らは、事件本人の養育は実母たる相手方が担当するべきであり、その際の養育料は自分が負担してもよい旨述べ、相手方が事件本人の養育につき余りにも無責任である旨主張した。これに対し相手方は、事件本人を引き取り養育することによる負担よりも、そのことによつて申立人栄一との間に再び何らかのかかわり合いの生じることを恐れ、養育料を若干負担することはよいが事件本人を引取ることはできない旨主張し、互いに平行線を辿つて見るべき合意に至らなかつた。当裁判所は事柄が未成年子の監護の方法に関わることであり、しかも、事件本人裕司は大きなハンデイを背負つた子であるだけに、能う限り事件本人を中心に考察した適切な監護の方法を追究したが、結局、調停において合意には至らなかつたた。よつて本件調停の申立は、昭和四九年七月二四日調停不成立に帰し、本件調停の申立は家事審判法二六条一項により審判に移行し、右調停申立のときに審判の申立があつたものとみなされたのである。

(当裁判所の判断)

一  まず申立人らの当事者適格につき検討する。申立人栄一は事件本人両名の親権者であり事件本人らを現に監護養育中の者であるが、離婚した事件本人の実母たる相手方に対し事件本人らの養育料の分担を求めるものである。ところで、未成年子の親は、単なる親族扶養とは異り、本来親子共同生活を営み共同してこれを養育すべきもので、その際父母は同順位で養育費用を分担するべき筋合であるが、この理は、父母が離婚し、共同生活が失われた場合にも、子の養育に関する限り親の共同の権利義務が変ることはない。そして、父母が離婚するに際しては、子の養育費は子の監護に必要な事項として協議して定め、又協議がととのわないときは家庭裁判所がこれを定める(民法七六六条)のである。そして、離婚の后においても、親権の帰属とは別個に、子が成年に達するまでは、父母が当事者となつて適宜、子の監護に関する申立をなしうるものと解される。この趣旨において、申立人栄一の本件申立は適法である。しかし、申立人良恵の本件申立は、同申立人が現実に事件本人らの監護に従事しているとはいえ事件本人らとの間に申立人栄一の如き関係に立つものではなく、従つて相手方に対しても自ら事件本人の監護に関する申立をなすべき当事者適格を欠くものといわなければならない。

二  そこで、相手方に対しどの程度の監護費用を分担させるべきであるかを検討する。

本件調査の結果によると、申立人栄一の所得月額は一二六、〇〇〇円であり、相手方は八〇、〇〇〇円であると認められる。そしてこれらを基礎として労研方式に基く最低生活費を算出すると、申立人栄一は三三、五一〇円、相手方三一、五三〇円である。ところで、事件本人二名を共に申立人栄一に養育させた場合二子に割当てられるべき生活費は事件本人裕司は三八、四九五円、事件本人盛幸は二七、四九〇円であつて、両名合計六六、四三五円である。反対に二子共に相手方に養育させた場合に二子に割当てられるべき生活費は事件本人裕司二六、六六六円、事件本人盛幸一八、八二三円合計四五、四八九円であるが、子は父母のうち高い方の生活費を保障されるべきであるから、結局二子の生活費は六六、四三五円となる。

そこで、申立人栄一、相手方の各所得に応じて二子の生活費を配分すると、

申立人栄一の負担額

66,000×((126000/33510)/(126000/33510)+(80000/31530))

= 43305≒43000円

相手方の負担額

66,000×((80000-31530)/(126000-33510)+(80000-31530))

= 22694≒23000円

従つて、上記算式によれば相手方は二三、〇〇〇円を負担すべきことになる。ところで、調査の結果によると申立人栄一は、不動産として宅地、家屋を所有し、現在和歌山県庁職員として勤務申である。他方で、相手方は、保母として稼働中であるが、資産は何らなく、母、兄夫婦、おい、めいらと同居中であつて、前記月収の中から右家族に生活費として毎月三〇、〇〇〇円を入れ、さらに母に生活費として毎月一〇、〇〇〇円を渡している。かような申立人栄一と相手方の生活基盤の強弱と申立人栄一の本件申立において求める額の限度、さらに本件審問の過程においてあらわれた諸般の事情を考慮すると、相手方に対しては、事件本人両名に対する養育料として毎月金一〇、〇〇〇円を負担させるのが相当であると解される。そして、本件の如き非訟事件たる審判手続における権利の形成は、将来に向つてのみなし得るものと解され、しかも、その権利の形成それ自体も審判終了の時点である本件審判告知の時点の諸事情に基いて判断決定されるものであるから、本件審判においては、審判告知の時以后の支払を命ずるのが相当だと思料される。よつて相手方に対し、上記の額の養育料を、本審判告知の時である昭和五〇年七月以降事件本人らが成年に達するまで、毎月末日限り申立人白石栄一方に持参又は送金して支払わせることとなる。

三  以上の理由により、結局申立人栄一の本件申立は理由があるが、申立人良恵の本件申立は理由がないので却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 秋山賢三)

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